2023年3月1日水曜日

「ハバクク書」ガイドブック はじめに

 「ハバクク書」ガイドブック

 

フィンランド語版著者 パシ・フヤネン

(フィンランド・ルーテル福音協会牧師)


日本語版翻訳・編集者 高木賢

(フィンランド・ルーテル福音協会、神学修士)

 

フィンランド語版ガイドブックの表現や内容には

ある程度の編集が加えられています。

 

日本語版では「ハバクク書」全文およびその他多くの聖書の箇所を

具体的に本文で明示しました。

聖書の引用は「口語訳」によっています。

 

 

なぜ神様は沈黙しておられるのか?

 

はじめに 

 

「義人はその信仰によって生きる」

 

「ハバクク書」の預言者ハバククについては殆ど何も知られていません。

例えば父親の名前や本人の出身地などについても

旧約聖書には記述が見当たりません。

ハバククはレビ族に属する神殿奏者だったのではないかという推論もあります。

「ハバクク書」3章は「詩篇」の形式で書かれており、

しかもそこには演奏する際の注意事項まで付記されているからです

(「ハバクク書」3章1、3、9、13、19節)。

 

このようにハバククは謎に包まれた人物です。


それでも

「ハバクク書」に記されている幻がいつの時代に該当するものか

確定するのは比較的容易であると言えます。


中近東地域の権力を掌握したカルデア人によって

ユダ王国とその首都エルサレムが滅ぼされる混迷の時代が到来することを

ハバククは予言しました。

このことから

ハバククは預言者エレミヤの同時代人であったのではないかと推測されています。

 

アッシリア帝国のアッシュルバニパル王が紀元前627年に死去すると、

中近東世界は後継者をめぐって大混乱に陥り、

その政治的な空白に乗じて権力奪取を目論む多くの者があらわれました。


その結果、紀元前612年にアッシリア帝国およびその首都ニネヴェは

メディア、エラム、バビロニア(世界史に登場する新バビロニア王国)

の攻撃を受けて滅亡します。


さらに、この状況を自国の権益拡大に利用しようとした

エジプトとバビロニアの間にも戦争が起こります。


そして、紀元前605年のカルケミシュの戦いに勝利したのは

ネブカドネザル二世に率いられた新バビロニア王国でした。


これ以降、エジプトは中近東地域での権勢を失うことになります。


「ハバクク書」に収められている予言が

このカルケミシュの戦いからまもない時期に書き記されたものであるのは

ほぼ確実です(「ハバクク書」1章12節)。


また、この戦いは次の「エレミヤ書」の箇所でも言及されています。

 

「エジプトの事、すなわちユフラテ川のほとりにある

カルケミシの近くにいるエジプトの王パロ・ネコの軍勢の事について。

これはユダの王ヨシヤの子エホヤキムの四年に、

バビロンの王ネブカデレザルが撃ち破ったものである。

その言葉は次のとおりである、」

(「エレミヤ書」46章2節、口語訳)

 

以上に述べた歴史的考察から、

預言者ハバククの活動時期は紀元前605〜598年頃であったと

推定することができるでしょう。

紀元前597年に始まった最初のバビロン捕囚について

「ハバクク書」は触れていないように見えるからです。