2018年4月25日水曜日

「フィレモンへの手紙」ガイドブック オネシモの事件 8〜22節(その5)

オネシモの事件 8〜22節(その5)


オネシモにはお金を主人に返還すべき手立てがないことを、
パウロは知っていました。
だからこそ、使徒パウロは
オネシモの負債を彼が肩代わりすることをフィレモンに提案したのです。
といってもこれは、
パウロ自らオネシモの負債全額をフィレモンに支払う、
という意味ではありません。
囚人の身であるパウロにしたところで、
大金を工面するあてなどなかったのですから。

フィレモンはパウロに対してある「負債」がありました。
それは、お金で量るにはあまりにも膨大な負債でした。
かつてパウロはフィレモンに福音を宣べ伝えました。
その福音によってフィレモンは神様の子どもとなり、
天の御国を継ぐ者とされました。

フィレモンが神様からいただいた
信仰の賜物の圧倒的な素晴らしさにくらべれば、
オネシモが掠めたかもしれない金額や、
オネシモのせいで生じた損失などは、
たとえそれがどれほど大きなものであったとしても、
取るに足らないものになります。

フィレモン自身の抱えていた「負債」と
オネシモがフィレモンに対して抱えた負債とを較べてみるように、
とパウロはフィレモンを促します。
そうすることで、フィレモンは
オネシモの負債の件を快く忘れることができるようになると思われるからです。

2018年4月18日水曜日

「フィレモンへの手紙」ガイドブック オネシモの事件 8〜22節(その4)


オネシモの事件 8〜22節(その4)


「しかも、もはや奴隷としてではなく、
奴隷以上のもの、愛する兄弟としてである。
とりわけ、わたしにとってそうであるが、
ましてあなたにとっては、肉においても、主にあっても、
それ以上であろう。」
(「フィレモンへの手紙」16節、口語訳)

この16節は、
オネシモが今やどのような存在になったのかを説明しています。
以前の彼はただの奴隷にすぎませんでした。
しかも悪い奴隷だったのです。
ところが、今や彼はキリストにあって信仰の兄弟になりました。
自分の主人と並んで永遠の命にあずかれる者とされたのです。

「そこで、もしわたしをあなたの信仰の友と思ってくれるなら、
わたし同様に彼を受けいれてほしい。」
(「フィレモンへの手紙」17節、口語訳)


この節でパウロはもう一度フィレモンに対して、
あたかも使徒パウロ自身を受け入れるかのようにして
オネシモのことを受け入れてくれるように懇願しています。

このガイドブックの「はじめに」のところで、
オネシモがフィレモンのもとを去った理由として
考えられうる二つの原因を提示しました。
もしかしたら彼は奴隷の立場から解放されたくて
主人のもとから逃亡したのかもしれません。
あるいは、
彼は何かよくないことをしでかして、
そのせいで主人の前に出る勇気がなくなってしまったのかもしれません。
逃げ出した際にオネシモが逃避行に必要となる金銭を
フィレモンから掠めた可能性も否定できないでしょう。
主人を避けて逃げ回っているのだとしたら、
オネシモはフィレモンに対してかなりの経済的損失を与えた可能性もあります。

2018年4月10日火曜日

「フィレモンへの手紙」ガイドブック オネシモの事件 8〜22節(その3)

オネシモの事件 8〜22節(その3)
  
「彼は以前は、あなたにとって無益な者であったが、
今は、あなたにも、わたしにも、有益な者になった。」
(「フィレモンへの手紙」11節、口語訳)

「これからも世話してもらうことを期待して
オネシモを自分のもとにできるだけ早く送り返してくれるよう、
ここでパウロはフィレモンに言葉を慎重に選びつつお願いしているのだろう」
などといった余計な想像を巡らす必要はまったくありません。
パウロはただ、
オネシモが彼にとってどれほど愛すべき存在であり、
また役に立つ存在となったか、ということを伝えたいだけなのです。
オネシモはキリストのよき従僕であり、
年老いた使徒パウロは彼のことを
できることなら自分のそばに留めておきたいと望んでいます。
しかしながら、神様の指し示される人生の歩みは
人間の視点からは不思議に映るものです。
次にあげる15節はその感動的な例とも言えましょう。

「彼がしばらくの間あなたから離れていたのは、
あなたが彼をいつまでも留めておくためであったかも知れない。」
(「フィレモンへの手紙」15節、口語訳)


驚くべきことに、
オネシモがフィレモンの家を出て行かなければならなかったのは、
彼がキリスト信仰者になるためだった、というのです!
もしも彼がフィレモンの家にずっと留まっていたなら、
彼はもしかしたら死ぬまで
「神様の敵」として生き続けることになってしまったのかもしれません。

2018年4月6日金曜日

「フィレモンへの手紙」ガイドブック オネシモの事件 8〜22節(その2)

 オネシモの事件 8〜22節(その2)
  

ある時、フィレモンの家から「オネシモ」という名の奴隷が逃げ出して、
そのまま行方不明になりました。
それから、この奴隷はパウロのもとにたどりつき、
そこでの滞在中にキリスト信仰者になりました。
以前のオネシモは奴隷として失格であったことをパウロは認めています。
自分の主人のもとから逃亡したことからも、それは明らかです。

しかし、今は状況が変わりました。
オネシモはキリスト信仰者になり、
パウロにとって愛すべき信仰の兄弟となったのです。

使徒はオネシモを
自分の友人でもある彼の主人のもとに送り返すことにしました。
フィレモンがもともと所有していた奴隷であるオネシモのことを、
あたかもフィレモンのもとを訪れる使徒パウロ自身であるかのように
待遇してくれることを、パウロはフィレモンに懇願しています。
オネシモは自分のことをフィレモンのもとに派遣してくれたパウロその人を
「代表する立場」にあるとも言えます。
だからこそフィレモンは、
パウロの来訪を心から歓迎するのとまったく同じ態度をもって
オネシモの帰還のことも心から喜ぶべきなのです。
オネシモは獄中にいたパウロに仕えました。
このようにしてフィレモンがパウロのためにできなかったことを
オネシモが代行してくれた、
という使徒パウロのフィレモンへの語りかけはとても巧みです。

オネシモは囚人パウロにとって大いに役立つ存在となっていました。
しかし、ほかの主人の所有する奴隷が
主人の許可なく彼のもとに留まりつづけることを
使徒パウロは望みませんでした。
ここでふたたびパウロの謙虚な態度が読者に伝わってきます。
パウロは自分にとって好ましいことを行ってくれるように
フィレモンを強制したいとは望まないのです。