2020年7月3日金曜日

「ルツ記」ガイドブック 飢餓を逃れて 「ルツ記」1章1〜5節(その2)

飢餓を逃れて 「ルツ記」1章1〜5節(その2)

 

「エリメレク」は字義通りに考えると

ヘブライ語で「我が神は王なり」という意味になります。

名前に基づいて判断するかぎり、

エリメレクの家族は真剣に神様を信仰する家族であったことになります。

それとは対照的に、

彼らが生きていたのは社会的にも宗教的にも混迷を極めた士師の時代でした。

 

エリメレクの妻「ナオミ」にはヘブライ語で

「好ましい」とか「愛らしい」とか「幸福である」といった意味があります。

「ルツ記」1章20〜21節の記述はこのことに関連しています。

 

彼らのふたりの息子の名前はマロンとキリオンでした。

「マロン」はおそらく「病気である」という意味であり

「キリオン」は「滅亡と破滅」を示唆する言葉です。

これらの名前は

彼らの生まれた時代の悲惨な状況に関連しているものではないでしょうか。

旧約聖書の「士師記」には

滅亡や破滅、病気や死にまつわる記述がたくさんあります。

古代ローマには「名前は来るべきことを予兆している」という意味の

ラテン語の諺Nomen est omen.)がありますが、

このふたりの息子の場合にはそれが当てはまったようにも見えます(5節)。

 

オルパとルツはモアブ人の名前です。

「オルパ」はヘブライ語の「首」や「うなじ」を意味する単語(オレフ)と

同じ語根から構成されています。

「名は体を表す」ということで考えると、

もしかしたら彼女の襟首は特別に美しかったのだったのかも知れません。

「ルツ」(「ルート」と発音します)はヘブライ語で

「女性の友だち」を意味する単語「レウート」に似た形をしています。

 

死んだエリメレクのかわりにナオミの生活を守ってくれるのは、

その頃すでに成人していた彼女の息子たちのはずでした。

彼らはまもなく結婚しました(「ルツ記」1章3〜4節)。

マロンはルツを(「ルツ記」4章10節)、

キリオンはオルパをそれぞれ妻として迎えました。

ところが、それから約10年後(「ルツ記」1章4節)、

新たな不幸がナオミの家族を襲うことになります。

彼女のふたりの息子たちもまたナオミを残して先立ってしまったのです。

 

イスラエルの民の間では、

後継ぎを得ないまま死んでしまうこと(「ルツ記」1章5節)

大きな不幸とみなされていました。

それは一族が断絶してしまうことに他ならなかったからです。

この最悪の事態を回避するためにこそ

前述のレビラト婚は制定されたとも言えます。

しかし、ナオミ、ルツ、オルパはモアブの地に、

またエリメレクの親戚たちはユダヤのベツレヘムに

と互いに離れて暮らしていました。