2020年11月25日水曜日

「ルツ記」ガイドブック ルツの求婚 「ルツ記」3章1〜18節(その2)

 ルツの求婚 「ルツ記」3章1〜18節(その2)

 

麦を打ちつけて選り分けるという脱穀場での作業(2節)は

丘の上で行われました。

踏み固められた地面の上に麦を広く敷き、

二頭の牛の引く重い「橇(そり)」を使って

麦の穂を穂軸から取り分けるのです。

次に麦の穂を宙に投げ上げると、

軽い殻の部分は風に吹き飛ばされ、

実の入った穀物だけが脱穀場に落ちてきます。

日没時に海からの風が陸に吹き付けたため、

風が強まるのは普通は夕方からでした。

そのためもあって、

脱穀作業は風が収まる夜遅くまで続けられました。

ボアズが夜まで脱穀場で働いていることを

ナオミが知っていたのはこのためです(2節)。

ボアズが「麦を積んである場所のかたわら」で眠っていたのは、

穀物が盗まれるのを未然に防ぐためでした(7節)。

 

イスラエル人にとって脱穀はお祝いするべきことでもありました。

それゆえ、脱穀の際には皆が集まって飲み食いする祝宴がもたれました(3節)。

 

「暗やみの中に歩んでいた民は大いなる光を見た。

暗黒の地に住んでいた人々の上に光が照った。

あなたが国民を増し、その喜びを大きくされたので、

彼らは刈入れ時に喜ぶように、

獲物を分かつ時に楽しむように、

あなたの前に喜んだ。」

(「イザヤ書」9章1〜2節、口語訳、節数はヘブライ語版に即しています)

 

それとは逆に、

収穫を祝う宴の歓声が聞かれなくなった陰惨な状況を描写する箇所も

聖書にはみられます。

たとえば「イザヤ書」9章2節、16章9〜10節、

それから次に引用する箇所などです。

 

「喜びと楽しみは、実り多いモアブの地を去った。

わたしは、ぶどうをしぼる所にも酒をなくした。

楽しく呼ばわって、ぶどうを踏む者もなくなった。

呼ばわっても、喜んで呼ばわる声ではない。」

(「エレミヤ書」48章33節、口語訳)

 

村人たちは同じ脱穀場を共有して使用していました。

そのため、ルツはあたりが暗くなるのを待って、

寝ている男たちのうちの誰がボアズであるかを

きちんと見極める必要がありました(4節)。


「ボアズは飲み食いして、心をたのしませたあとで、

麦を積んである場所のかたわらへ行って寝た。

そこで彼女はひそかに行き、ボアズの足の所をまくって、そこに寝た。

夜中になって、その人は驚き、起きかえって見ると、

ひとりの女が足のところに寝ていたので、「あなたはだれですか」と言うと、

彼女は答えた、「わたしはあなたのはしためルツです。

あなたのすそで、はしためをおおってください。あなたは最も近い親戚です」。」

(「ルツ記」3章7〜9節、口語訳)

 

ルツはこのような大胆な行動を取ることで、

ボアズが彼女とナオミの将来を守るために

自分を彼の嫁にしてくれるように懇請したのです。

ルツがボアズの「足元」にうずくまったのは、

彼女がボアズの「はしため」であることを具体的に表す行為でした。

主従の関係を表現している「足台」については

次に引用する聖書の箇所が有名でしょう。

 

「主はわが主に言われる、

「わたしがあなたのもろもろの敵を

あなたの足台とするまで、わたしの右に座せよ」と。」

(「詩篇」110篇1節、口語訳)

 

ボアズはルツの礼儀をわきまえた正しい求婚の仕方に深い感銘を受けました。

ひどい場合には、次のモーセの律法のケースのように、

ルツがボアズを直接裁判に訴える可能性だってありえたからです。

 

「しかしその人が兄弟の妻をめとるのを好まないならば、

その兄弟の妻は町の門へ行って、長老たちに言わなければならない、

『わたしの夫の兄弟はその兄弟の名をイスラエルのうちに残すのを拒んで、

夫の兄弟としての道をつくすことを好みません』。」

(「申命記」25章7節、口語訳)。

 

ボアズもまたルツに対して礼儀正しく答えます。

 

「ボアズは言った、「娘よ、どうぞ、主があなたを祝福されるように。

あなたは貧富にかかわらず若い人に従い行くことはせず、

あなたが最後に示したこの親切は、さきに示した親切にまさっています。」

(「ルツ記」3章10節、口語訳)

2020年11月18日水曜日

「ルツ記」ガイドブック ルツの求婚 「ルツ記」3章1〜18節(その1)

 ルツの求婚 「ルツ記」3章1〜18節(その1)

 

ルツと結婚することについてボアズは自分からは積極的に動きませんでした。

その理由は

「たしかにわたしは近い親戚ではありますが、

わたしよりも、もっと近い親戚があります。」(12節)

というボアズの返事からわかります。

 

ボアズはたしかにエリメレクとナオミの親戚ではありましたが、

ボアズよりもさらに血縁的に近しい親戚が他にもうひとりいたのです。

その人物にルツを妻として迎える意思がある場合には、

それに対してボアズは何もできません。

おそらくこのためにボアズはルツに結婚を申し込まなかったのではないでしょうか。

 

ここでルツの姑が動き出します。

まるで実の母親であるかのように、

ナオミはルツにボアズへの求婚の仕方を教えます(1〜4節)。


レビラト婚は

女性の社会的・経済的な立場を保護するために定められた律法規定であり、

女性の側に積極的な役割が与えられていました(「申命記」25章7〜10節)。

「身を洗って油をぬり、晴れ着をまとって」(3節)

というナオミがルツに与えた指示は、

ルツが花嫁として婚礼を迎えるための準備に関わるものでした。

ちなみに「エゼキエル書」16章9〜12節にも

婚礼のための花嫁の身支度についての記述が出てきます。

 

実は、ボアズが本来贖い出すべき相手はルツではなくナオミでした。

しかし、すでに高齢になっていたナオミでは

もはや子どもを生むことができなかったので、

ナオミとのレビラト婚は実質上無意味でした。

それでナオミはルツにその権利を移譲したのです。

こうすることで、

エリメレクとナオミの一族に後継が生まれる希望がまだ残ることになるからです。

2020年11月5日木曜日

「ルツ記」ガイドブック 生まれ出ずる希望 「ルツ記」2章17〜23節(その2)

生まれ出ずる希望 「ルツ記」2章17〜23節(その2)

 

ボアズは「縁者」の使命を忠実に果たした模範的人物として

旧約聖書にその名が記されています。

 

聖書はキリストこそが私たちにとっての真の「縁者」であると教えています。

キリストは私たちの罪の負債をすべて肩代わりして返済してくださったからです。

 

「神は、わたしたちをやみの力から救い出して、

その愛する御子の支配下に移して下さった。

わたしたちは、この御子によってあがない、

すなわち、罪のゆるしを受けているのである。」

(「コロサイの信徒への手紙」1章13〜14節、口語訳)

 

上記の箇所で「あがない」という言葉は

ギリシア語で「アポリュトローシス」と言います。

新約聖書ではこの言葉には

「身代金を払って奴隷状態から釈放されること」とか

「キリストの死の代価によって罪が帳消しにされること」

といった意味があります。

 

「あなたがたは、先には罪の中にあり、

かつ肉の割礼がないままで死んでいた者であるが、

神は、あなたがたをキリストと共に生かし、

わたしたちのいっさいの罪をゆるして下さった。

神は、わたしたちを責めて不利におとしいれる証書を、

その規定もろともぬり消し、これを取り除いて、

十字架につけてしまわれた。

そして、もろもろの支配と権威との武装を解除し、キリストにあって凱旋し、

彼らをその行列に加えて、さらしものとされたのである。」

(「コロサイの信徒への手紙」2章13〜15節、口語訳)

 

イスラエルでは穀物の収穫に約6週間かかりました。

 

「それで彼女はボアズのところで働く女たちのそばについていて穂を拾い、

大麦刈と小麦刈の終るまでそうした。

こうして彼女はしゅうとめと一緒に暮した。」

(「ルツ記」2章23節、口語訳)

 

この節からは、

穀物の収穫の時期を通じて姑のナオミの世話をしたルツが

主を信仰する者として立派な生き方をしていたことや、

それが周りの人々にもよく知られていたさまが伝わってきます。

模範的な生活を送っていたルツに悪い評判が立たないように

ボアズが細かく配慮することからもそれがわかります(「ルツ記」3章14節)。