2023年3月3日金曜日

「ハバクク書」ガイドブック「義人はその信仰によって生きる」

「ハバクク書」ガイドブック

「義人はその信仰によって生きる」

ここで当時のユダ王国の状況を振り返ってみることにしましょう。

敬虔なヨシヤ王(在位期間は紀元前640〜609年)は

前述のカルケミシュの戦いに向けて進軍するエジプトに戦いを挑み

メギドの地で戦死してしまいます。

ユダ王国を継承したエホアハズはわずか三ヶ月間在位しただけでした。

その次に王となったのは悪辣さで知られたエホヤキムです。

彼は紀元前609〜597年の間、ユダの王位にありました

(「歴代志下」36章1〜10節)。

 

絶望的に見える混迷の時代に主の預言者ハバククは

神様が偉大で全能なるお方であることを「選ばれた民」

すなわちイスラエルの民に説き聞かせます。

主はたしかに一時的にではあれ

バビロニア(「カルデヤびと」)が強大な権力を掌握することを許されました。

しかしそのバビロニアもいずれは主の御心によって滅ぼされることになる

ということについてハバククは語りました。

そしてその通りになったのです。

 

預言者ハバククは熱心に祈る人であり、

詩的な表現を巧みに駆使して預言を書き記す人でもあったことが

「ハバクク書」からは伝わってきます。

この書で彼は神様との対話を試みています。

「ハバクク書」1〜2章はおおよそ次のように区分することができるでしょう。

 

1章2〜4節 預言者の第一の嘆き

1章5〜11節 神様からの第一の返答

1章12〜17節 預言者の第二の嘆き

2章1〜20節 神様からの第二の返答

 

どうして神様は悪辣なバビロニア王国の力を使って

ユダ王国を罰するようなことをなさったのでしょうか。

この疑問をハバククは神様に素直にぶつけます。

バビロニアはユダよりもさらにひどいやりかたで神様を蔑ろにする

邪悪な国だったからです。


このもっともな質問に対する神様からの返答は次のようなものでした。


義人はその信仰によって生きる(「ハバクク書」2章4節)。

それに対し、神様を蔑ろにする悪辣な者は裁きを受ける。

最終的にはバビロニアもまた裁きを受けることになる

(「ハバクク書」2章7〜8節)。


事実、紀元前539年にペルシアがバビロニアに勝利し、

ユダの捕囚民を解放することになります。

 

ハバククは真の神様がいずれは世界中であまねく知られるようになる

という幻を受けていました(「ハバクク書」2章14節)。

すなわち、彼は主の御心を正しく伝える宣教活動が

世界中で大規模に展開される未来を予言していたことになります。

 

1940年代に死海のほとりのクムラン洞窟で発見された

いわゆる「死海文書」には「ハバクク書」の釈義書も含まれていました。

しかしそれには「ハバクク書」3章の説明が欠けています。

ともあれ、この書がクムランで発見されたことから、

紀元前後の時期のユダヤ教において

「ハバクク書」が重要視されていたことがわかります。

 

また「ハバクク書」には

使徒パウロや宗教改革者マルティン・ルターにとって極めて重要になった

聖句が含まれています。

それは

「義人はその信仰によって生きる」(「ハバクク書」2章4節、口語訳)

という一節です。

この言葉は新約聖書の「ローマの信徒への手紙」1章17節や

「ガラテアの信徒への手紙」3章11節にも引用されています。

預言者ハバクク自身にとってこの言葉は、

真の神様への信仰を守り通すイスラエル人たちが

バビロニアという異国で捕囚の民として過ごす時期にも

信仰によって「主の民」として生き抜くことができる

という希望と慰めを与えてくれるものでした。


信仰を失った国民や人間は世界の混乱の只中で

正しい道を見失い行方が分からなくなってしまうものです。

しかしその一方で、

信仰を保ち続ける人々はどのような苦境の只中にあっても

耐えて生きていくことができます。