2026年10月12日月曜日

「テトスへの手紙」ガイドブック 「テトスへの手紙」1章10〜16節  きよい人には、すべてのものがきよい(その1)

 きよい人には、すべてのものがきよい(その1)

「テトスへの手紙」1章10〜16節

 

「実は、法に服さない者、空論に走る者、

人の心を惑わす者が多くおり、

とくに、割礼のある者の中に多い。」

(「テトスへの手紙」1章10節、口語訳)

 

クレテに蔓延した異端の教えはもともとユダヤ人たちが広めたものであった

と上節から推論することもできますが、

たしかにそうであったとも言い切れません。

グノーシス主義は種々多様な宗教からの影響を受容してできた

「諸宗教のごった煮」のようなものであったからです。

クレテのグノーシス主義者たちが

ユダヤ教からキリスト教に改宗した人々の心を掴むような布教活動を展開した

ということはありえます。

ともあれ異端の教えはもともとキリスト教会の外部ではなく

内部に生起したものでした。

 

「彼らの口を封ずべきである。

彼らは恥ずべき利のために、教えてはならないことを教えて、

数々の家庭を破壊してしまっている。」

(「テトスへの手紙」1章11節、口語訳)

 

異端の教師たちは熱心に家々を個別訪問して布教活動を行いました。

こうして彼らは家族単位での改宗を進めていったのです。

彼らはまた布教活動を通じて経済的な利益を得ようとしました。

おそらく彼らは改宗者たちから報酬を要求したのでしょう

(「テモテへの第一の手紙」6章5〜10節も参考になります)。

 

パウロは異端の教師たちを「空論に走る者」と呼んでいます

(1章10節、「テモテへの第一の手紙」1章6節)。

 

異端教師たちの「口を封ずべきである」とパウロは命じています。

彼らと対話したり論争したりするのは徒労に終わります。

彼らは自分の道をすでに選んでしまっているからです

(3章10節も参照してください)。

 

「クレテ人のうちのある預言者が

「クレテ人は、いつもうそつき、たちの悪いけもの、なまけ者の食いしんぼう」

と言っているが、この非難はあたっている。」

(「テトスへの手紙」1章12節および13節冒頭、口語訳)

 

上掲の箇所に引用されているのは

紀元前500年代に生きたエピメニデスの詩です。

この詩人は預言者とも目されていました。

おそらくパウロは「預言者」という言葉によって、

クレテ人についてのエピメニデスの詩がパウロの時代のクレテ人にも当てはまる

という意味で予言的でもあったことを強調したいのではないでしょうか。

ギリシア語では

「クレテ人である」という言葉と「嘘をつく」という言葉は同義語です。

大陸側のギリシア人たちはクレテ人たちを

かくも信頼ならない者とみなしていたということです。