ある時、フィレモンの家から「オネシモ」という名の奴隷が逃げ出して、
そのまま行方不明になりました。
それから、この奴隷はパウロのもとにたどりつき、
そこでの滞在中にキリスト信仰者になりました。
以前のオネシモは奴隷として失格であったことをパウロは認めています。
自分の主人のもとから逃亡したことからも、それは明らかです。
しかし、今は状況が変わりました。
オネシモはキリスト信仰者になり、
パウロにとって愛すべき信仰の兄弟となったのです。
使徒はオネシモを
自分の友人でもある彼の主人のもとに送り返すことにしました。
フィレモンがもともと所有していた奴隷であるオネシモのことを、
あたかもフィレモンのもとを訪れる使徒パウロ自身であるかのように
待遇してくれることを、パウロはフィレモンに懇願しています。
オネシモは自分のことをフィレモンのもとに派遣してくれたパウロその人を
「代表する立場」にあるとも言えます。
だからこそフィレモンは、
パウロの来訪を心から歓迎するのとまったく同じ態度をもって
オネシモの帰還のことも心から喜ぶべきなのです。
オネシモは獄中にいたパウロに仕えました。
このようにしてフィレモンがパウロのためにできなかったことを
オネシモが代行してくれた、
という使徒パウロのフィレモンへの語りかけはとても巧みです。
オネシモは囚人パウロにとって大いに役立つ存在となっていました。
しかし、ほかの主人の所有する奴隷が
主人の許可なく彼のもとに留まりつづけることを
使徒パウロは望みませんでした。
ここでふたたびパウロの謙虚な態度が読者に伝わってきます。
パウロは自分にとって好ましいことを行ってくれるように
フィレモンを強制したいとは望まないのです。