2022年3月23日水曜日

「ヤコブの手紙」ガイドブック 結び目の強度は一番弱い箇所で決まる「ヤコブの手紙」2章10〜13節(その1)

 結び目の強度は一番弱い箇所で決まる

「ヤコブの手紙」2章10〜13節(その1)

 

「なぜなら、律法をことごとく守ったとしても、

その一つの点にでも落ち度があれば、全体を犯したことになるからである。」

(「ヤコブの手紙」2章10節、口語訳)

 

この節でヤコブが書いていることは、

パウロの「ガラテアの信徒への手紙」5章3節と

内容的には同じですが視点は異なっています。

 

「割礼を受けようとするすべての人たちに、もう一度言っておく。

そういう人たちは、律法の全部を行う義務がある。」

「ガラテアの信徒への手紙」5章3節、口語訳

 

この節でパウロは律法の教義的な側面を強調しています。

もしも律法を通して救われたいのなら、

罪の赦しの恵みを救いの根拠として持ち出すことはできないし、

もしも罪の赦しの恵みを通して救われたいのなら、

どれかひとつでも律法の戒めを完全に守ることを

救いの根拠として持ち出すことはできないということです。

それに対して、ヤコブは神様の啓示の絶対性を全面に打ち出します。

律法の中から自分の気に入った規則だけを守るために選んで

他の残りの部分は無視するのは許されるものではありません。

 

イエス様の山上の説教での律法の厳しい解釈は

「ヤコブの手紙」にとても近い考え方であると言えます。

 

「『姦淫するな』と言われていたことは、

あなたがたの聞いているところである。

しかし、わたしはあなたがたに言う。

だれでも、情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。

もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。

五体の一部を失っても、全身が地獄に投げ入れられない方が、

あなたにとって益である。

もしあなたの右の手が罪を犯させるなら、それを切って捨てなさい。

五体の一部を失っても、全身が地獄に落ち込まない方が、

あなたにとって益である。

また『妻を出す者は離縁状を渡せ』と言われている。

しかし、わたしはあなたがたに言う。

だれでも、不品行以外の理由で自分の妻を出す者は、姦淫を行わせるのである。

また出された女をめとる者も、姦淫を行うのである。」

(「マタイによる福音書」5章27〜32節、口語訳)

 

律法の全てを遵守することが不可欠であるという考え方は旧約聖書にもあります。

 

「『この律法の言葉を守り行わない者はのろわれる』。

民はみなアァメンと言わなければならない。」

(「申命記」27章26節、口語訳)

 

神様の啓示はその全体がひとつのまとまりをなしています。

「ヤコブの手紙」2章11節で十戒のうちの

第六戒が第五戒よりも先に挙げられているのは、

新約聖書が書き記された時代に用いられていた

ギリシア語訳旧約聖書(いわゆる「七十人訳」)が

二つの戒めについてこの順序で書いているからでしょう

(「出エジプト記」20章13〜14節、「申命記」5章17〜18節)。

 

シナイ山で神様はイスラエルの民に御自分を啓示なさいました。

その時に神様はイスラエルの民が自らの神として崇めるための彫像を

何もお与えにはなりませんでした。

そのかわりに神様は彼らが遵守すべきものとして律法を賜りました。

この律法には神様の御意思が具体的に表現されていると言えます。