2020年12月16日水曜日

「ルツ記」ガイドブック 取り払われる障害 「ルツ記」4章1〜12節(その2)

  取り払われる障害 「ルツ記」4章1〜12節(その2) 

 

ナオミの一族に最も近しい「縁者」は

どうしてナオミの土地を積極的に贖おうとしなかったのでしょうか。

上に述べた「ヨベルの年」に関する律法規定がその理由を明らかにしてくれます。

その縁者はナオミの畑を買い戻すために自分のお金を使わなければならないし、

しかもその畑は結局エリメレクの一族のものとなってしまいます。

また、ルツとの間に生まれるであろう最初の男の子は

エリメレクの息子マロンの息子とみなされることになります。

この縁者が消極的であったもうひとつの理由は、

もしもルツとの間に生まれる男の子が一人だけの場合には、

畑を贖った彼自身の資産もすべてマロンの一族(すなわち、ナオミの一族)

の所有に帰してしまうことになるという恐れでした。

しかし、この後者のケースが実際に起きる可能性は

きわめて小さかったと思われます。

なぜなら、ユダヤ人の成人男子が普通そうであるように、

その縁者はすでに結婚していたでしょうし、

彼にはすでに自分の子どももいたはずだからです。

 

それでもこの縁者は畑自体を贖うことは承諾しました(4章4節)。

ところが「モアブ人ルツと結婚しなければならない」という条件を聞いて

彼の態度は一変しました(4章5〜6節)。

その畑は自分の資産とはならず、

ルツとの間に生まれてくる男の子の資産、

すなわちエリメレクの一族の資産となってしまうことがわかったからです。

 

「むかしイスラエルでは、物をあがなう事と、権利の譲渡について、

万事を決定する時のならわしはこうであった。

すなわち、その人は、自分のくつを脱いで、相手の人に渡した。

これがイスラエルでの証明の方法であった。」

(「ルツ記」4章7節、口語訳)

 

この節は、イスラエルにかつて存在した古い慣習について

「ルツ記」の読者に説明しています。

このことから「ルツ記」は

ナオミとルツをめぐる出来事の起きたすぐ後に

書き記されたものではないことがわかります。

 

こうしてボアズはエリメレクとナオミの一族の「縁者」としての義務を

引き継ぐことを正式な手続きを踏まえた上で宣言したのです。

 

「すると門にいたすべての民と長老たちは言った、

「わたしたちは証人です。どうぞ、主があなたの家にはいる女を、

イスラエルの家をたてたラケルとレアのふたりのようにされますよう。

どうぞ、あなたがエフラタで富を得、ベツレヘムで名を揚げられますように。

どうぞ、主がこの若い女によってあなたに賜わる子供により、あなたの家が、

かのタマルがユダに産んだペレヅの家のようになりますように」。」

(「ルツ記」4章11〜12節、口語訳)

 

ルツはベツレヘムの人々から好意的にみられていたことが

この箇所や4章15節からわかります。

また、タマルはルツの比較対象として適切な例です。

彼女もレビラト婚を通じてペレヅとゼラを生んだからです

(「創世記」38章27〜30節)。

 

本来ならば、ボアズよりも近い親戚関係にあるもうひとりの人物が

「縁者」としてエリメレクとナオミの畑を贖い、

ルツを妻として迎えるべきところでした。

しかし、その人物は「縁者」としての使命を引き受けませんでした。

もちろんボアズも彼と同じように

「縁者」としての義務の履行を拒むことだってできたはずです。

しかし、ボアズはそうしませんでした。

ですから、ボアズが「贖い」の使命を引き受けたのは

「純粋なる愛」に基づく行いであったと言えます。

その意味で、ボアズとルツの結婚は「神様の愛」に基づくものでした。