2020年6月10日水曜日

「ルツ記」ガイドブック 愛のため?それとも金のため?


愛のため?それとも金のため?

「ルツ記」では、ルツがボアズと結婚したことが賞賛されています。
この結婚によってナオミの家族に、
本来その一族のものだった土地が元通り返還されることになったからです。
しかし、
現代人の結婚にとって必須事項である「愛」については何の言及もありません。

たとえば、フィンランドでは
今から100年ほど前(1900年代初頭)までは
「若い当事者同士の意見は何も聞かずに、
双方の一族の間で一方的に結婚を取り決める」という慣習が行き渡っていました。
その後ようやく結婚のあり方が少しずつ変化し始めました。
しかし、それとともに離婚する人の数も増加の一途を辿りました。
ですから、今の結婚のやり方が「より幸福なもの」になったのかというと、
必ずしもそうとは言えません。
これは、結婚はただ感情の炎が燃え盛ることなどではなくて、
それを維持するためには熱心な働きかけやたゆまぬ努力が必要とされる、
という基本的な事柄を今の多くの人々がなおざりにしているからかもしれません。

「ルツ記」には人間の救いの歴史に関わる
ある重要なメッセージが込められています。

ダヴィデの曽祖父となるボアズの妻ルツは
当時のイスラエルの民が憎悪したモアブ民族の出身でした
(「ルツ記」4章18〜22節)。
すなわち、ルツは神様の選ばれた民であるイスラエルには属していなかった
旧約聖書の登場人物のひとりなのです。
この点で、神様の救いが異邦人たち(すなわちイスラエル以外の諸民族)にも
及ぶようになった後の時代の状況をルツのケースは先取りしているとも言えます。

イエス・キリストの系図(「マタイによる福音書」1章1〜17節)には
4人の女性の名前が記されています。
彼女たちにはそれぞれなんらかの「問題」がありました。

1)タマル(「マタイによる福音書」1章3節)はユダの息子エルの妻でした。
彼女は異邦人(カナン人)であった可能性があります。
エルの死後やもめとなった彼女にユダは
他の息子を将来新しい夫として与える約束をして、彼女を実家に送り返します。
しかし、ユダが約束を守るつもりがないことを知った彼女は、
素性を明かさずに娼婦を装い、
死んだ夫の父親であるユダと床を共にして子を得ます(「創世記」38章)。

2)ラハブ(「マタイによる福音書」1章5節)は
異邦人(カナン人)であり娼婦をして生計を立てていました。
彼女は「ボアズの母」と言われていますが、
「母」とか「父」という言葉は、聖書では祖母や曽祖母、
あるいはさらに昔の祖先のことを意味していることもあります。

3)ルツ(「マタイによる福音書」1章5節)も
前述の通り異邦人(モアブ人)でした。

4)バテシバ(「マタイによる福音書」1章6節)はウリヤの妻でした。
ウリヤが戦地にいる間に彼女はダヴィデ王の呼び出しを受けて床を共にし、
妊娠します。
ダヴィデは自分の姦淫の罪を隠蔽するため様々な策を弄しましたがうまくいかず、
結局はウリヤを故意に敵の手で戦死させてしまいます
(「サムエル記下」11章)。

人間の視点からすれば神様に受け入れていただけるはずのない
きわめて罪深い人々のことを、
神様は憐れみ深い御心を実現させるためにお選びになったのです。