2008年8月20日水曜日

マルコによる福音書について 序 その1

マルコによる福音書を読むためのガイドブック

読者へ

この本は聖書研究会、とりわけ信徒がグループの中心となるような集まりでの活用を想定して書かれています。ガイドブックはその都度読まれる聖書の箇所についての説明と質問と終わりのお祈りを含んでいます。

エルッキ・コスケンニエミ (日本語版翻訳編集 高木賢)


序 マルコによる福音書について

福音書を書いた人物、書かれた場所と時期

古くからあるキリスト教の伝承は、福音書記者マルコがペテロの通訳者としてキリストの弟子たちの長であるペテロに従ってあらゆるところに行った」と語っています(「パピアスの断片集」[1])。そして最後にはローマでペテロの語ったイエス様の教えを書き留めたというのです。パピアスの証言などの伝承の信憑性を疑う学者は多くいました。それはともかく、マルコによる福音書はしばしばペテロの視点から書かれている、という点は注目に値します。この福音書にはイエス様の実弟でありエルサレムの初代キリスト教会の後の指導者でもあったヤコブについてはその名前さえ述べられていません。ペテロの第1の手紙5章13節は、ペテロとマルコが一緒にローマにいたと語っています(その箇所で「バビロン」はあきらかにローマをさしています)。ルカとマタイがマルコによる福音書からその大部分をそれぞれの福音書に引用した後でもなお、初代教会はマルコによる福音書を大切に保存しました。マルコの背後には非常に信頼のおける伝承の継承者がいたのはまちがいありません。こういうわけで、ペテロとマルコの間にはなんらかの関係があった、と自然に推定することができます。

福音書の書かれた場所と時期を正確に決定するのは困難です。前述のようにローマで書かれたという説が古くからあります。この福音書はユダヤ人に対してというより異邦人に対して書かれています。書かれた時期はおよそ西暦70年頃、エルサレムが崩壊する少し前かあるいは崩壊した後まもなくのことであるのはまちがいなさそうです。
[1] パピアス断片集については次のリンクがあります。
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/urchristentum/papias.html
そこにエウセビオス〔260/65-339〕が残した、パピアスのマルコスについての以下の証言があります。「これも長老が言っていたことだ。マルコスは、ペトロスの通訳者(hermeneutes)であって、記憶しているかぎりのことを、精確に書いた、ただし、主によって言われたことにしろ為されたことにしろ、順序立ててではない。なぜなら、主から〔直接〕聞いたのでもなく、これに付き従ったのでもなく、〔彼が付き従ったのは〕わたしが謂ったように、後になって、必要のために教えを広めたペトロスであって、主の語録のいわば集成のようなことをしたのではなかった、その結果、マルコスはいくばくかのことを思い出すままに書いたが、何らの過ちも犯さなかった。というのは、聞いたことは何ひとつ取り残すことなく、あるいは、そのさいに何らか虚言するもないよう、その一点に配慮したからである」。